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慣習を破るプロダクト開発で、難しい物流サービスに変革を起こした話【イベントレポート】

こんにちは、オープンロジでプロダクトマネージャーをしている高橋です。

2024年9月、オフラインで行われた「【オープンロジ×ラクス】バーティカル/ホリゾンタルの違いから学ぶプロダクトマネジメントのアプローチ」に登壇してきました。

今回はバーティカルなサービスにおける「製品やお客様との向き合い方について」と、「今どんなことにチャレンジしているのか」というテーマをベースに、
「拡大期におけるプロダクト変革」「物流におけるバリュープロポジションについて」事例をお話させて頂きましたので、そのレポートを残したいと思います。



自己紹介

HR系プロダクトのPM/カスタマーサクセス/開発を経験したのち、DevOps組織のマネジメントを担当。その後、業務アプリケーションのユーザビリティをなんとかしたいとデザイナーに転身。
現在はデザイナーとしての副業、UXのイベントやメディア運営等も行いつつ、オープンロジのリードプロダクトマネージャーとして、プロダクト戦略/UX/組織作りに注力しています。


登壇スライド


オープンロジとは

オープンロジは「物流の未来を、動かす」というミッションを掲げ、
サイロ化が進んだ物流業界の課題に切り込み、テクノロジーにより最適化していくことを目指しています。
24年2月にはシリーズDの資金調達もしました。

物流の中でもオープンロジはEC物流の領域を主軸としており、荷主様の物流業務を丸ごとお任せ頂く中で、最適化を進めています。

オープンロジが担う部分は、この図の中央にある部分全てです。
EC事業者様(またはメーカー様)は、まず弊社のパートナー倉庫様に商品を発送していただきます(その倉庫選定もオープンロジが行います)。
その後、倉庫に商品が到着した後の管理や、注文情報をシステムに取り込んで頂いた後の倉庫との連携、庫内作業(梱包~配送業者様への引き渡し)などがシームレスに行われるよう、システムを通してオープンロジがサポートを行います。

シームレスなモノの動きを実現するため、システムの提供だけでなく運用の最適化や、荷主様の事業成長に合わせた物流提案、倉庫現場の改善も行っているのが特徴です。


前代未聞の物流プラットフォーム

【前提】業界初!物流代行のTwo Sided Market Place

倉庫はこれまで荷主から1対1で荷物を請け負い、個社ごとに運用を構築するのが常識でした。
しかし、近年SNSの普及やコロナ禍もあいまって、EC事業者は増加しています。増加していくEC事業者(荷主)一つ一つに異なる庫内オペレーションを構築していくことは非常に困難ですし、そもそも新しい荷主獲得に向けた営業もしきれていない状況でした。
また、荷主側も新しく事業を立ち上げた際など、今後の物流量が読めない場合があります。自社の商品や事業成長に見合った倉庫が見つけられず、事業成長のボトルネックとなっていました。

そこでオープンロジは、荷主と倉庫が利用する同一の物流システム・同一の倉庫オペレーションをプラットフォームサービスとして提供しました。EC事業者がAmazonに出店するだけで販売を開始できる「Two Sided Market Place」と同じ構造です。
これにより、倉庫は荷主一つ一つに全く別のオペレーションを構築する手間を減らすことができるだけでなく、オープンロジを介して自社の強みを活かせる荷主を獲得できるようになりました。

そして、オープンロジはプラットフォームサービスを展開するにあたり、多数の倉庫と提携し、独自の倉庫ネットワークを構築しています。
荷主にとっては、多数の選択肢の中から、自社により最適な倉庫を選べるようになりました。


まずはコンシェルジュ型MVPからスタート

物流版のTwo Sided Market Placeは類似サービスもないため、人力でサービスを回しながら徐々にプロダクトを強化していきました。まさに「コンシェルジュ型MVP」のようなことをしていたように思います。

※コンシェルジュ型MVPとは、事前にそのサービスが本当に必要になるのか?を検証するため、システムを作る前に人間が同様のサービスをやってみよう(そしたらニーズがあるかわかるよね)というものです。

コンシェルジュ型MVPの例 引用元:Wizard of OZ Testing

荷主様からの作業依頼は多岐に渡ります。荷物をお預かりした後の作業はただ保管するだけ、配送会社に渡せばいいだけではありません。(詳しい倉庫業務はこちらをご覧ください)
輸送中に壊れないよう、配送会社に渡す前に緩衝材で商品を保護してほしい、などはよくありますし、
倉庫に届いたものを組み立てて、商品を形にしてから配送会社に渡してほしい、などのリクエストもあります。

また、リクエストを受けることで倉庫側には追加の作業時間や資材費などが発生しますので、いくらで対応するか?という議論も必要です。

私たちは作業依頼を詳細までお伺いし、提携倉庫様と「この料金で、こういうオペレーションを組めば実現できますか?」と一緒に考えることで、倉庫様の提供価値の向上を実現しつつ、極力負荷をかけずに複数の荷主さんを抱えられるようにしました。

そして、多くの荷主様と向き合いこのような議論を続けることで、様々な要望が価格帯も含めて標準化でき、サービスメニューとして販売できることが分かってきたのです。


サービスのあり方を一新する「物流メニュー化プロジェクト」

荷主様からの要望が標準化・サービスメニュー化できるという発見から、今期、サービスのあり方を一新するプロジェクトを進めました。

これまでの「まずはオープンロジが要望をお伺いし、倉庫と相談する」という行程をなくし、メニュー化されたサービスをシステム上で購入できるようにする、というものです。
荷主はこのメニューからオーダーを行うことで、オープンロジを介さずスピーディーに倉庫へ追加作業のリクエストができるようになり、倉庫様はその分を自動請求できるようになりました。

このプロジェクトは、前提となっていた運用にメスを入れるため、社内外共にかなりの変革がもたらされます。もちろん導入前には各所から不安が寄せられました。
荷主様からは、「これまでどおり倉庫様と関係が構築できているオープンロジに、まずは相談したい」といった声や、倉庫様からは「契約交渉や背景がわからぬまま作業を引き受けて大丈夫か」という声もありました。それを受けてオープンロジ社内でも、不安感が漂っていました。


変革への不安には、プロトタイプを見せるべし

有名なヘンリー・フォードの「もっと速い馬が欲しい」という話があります。
顧客はどうしても今までの前提をベースに物事を考えるため、具体的に新しいソリューションをみせなければ、旧来のやり方が最適に感じられる、という趣旨の話です。

これを参考に、私は変革への不安に対して「どう変わるのか?をシステムも含めて明確に示す」ことが重要と考えました。
荷主様・倉庫様・社内には、プロトタイプを用意し、運用設計と共にデモンストレーションをして周りました。実際にそれを見せて話をしてみると、「実はオープンロジに依頼することで対応が遅くなる、状況が分かりにくくなる」という話が荷主・倉庫双方から出てきました。懸念事項がプロトタイプで払拭されることで、その奥にある課題に目を向けるようになったのです。


物流におけるバリュープロポジションを定義するのは難しい

次のチャレンジ

次のチャレンジとして、プロダクト成長指標を設定することを目指しています。
この指標を設定することはプロダクトマネジメントとしては当たり前に言われていることではありますが、オープンロジのソリューションにおいては、明確な価値を数字や言葉にするのが非常に難しいと感じています。

顧客が感じる物流の価値は、様々なところにあります。
コストや品質はもちろん、(倉庫の)ロケーションでいえば届け先に近い拠点から出庫する、といった話、ニーズの部分なら「後払いにしたいからコンビニに渡す決済伝票を荷物に入れてほしい」など
様々な荷主の希望に沿った価値を提供しなければなりません。

「顧客が感じる物流の価値」を分析した結果からも、バリュープロポジションは顧客ごとに異なる、ということが分かりました。顧客によってはコスト重視のところもあれば、コストをかけても購入者体験を良くしたいというところもあり、答えが一つではないのです。

だからこそ、私たちはテクノロジーを使って顧客にとっての最適化を追求し、形にすることを目指しています。

ただ、最適化を測るための目指すべき指標(North star metrics)を設定するのが難しいため、意思決定含めてプロダクトマネジメントも難易度が高くなります。

考えられるソリューションも多岐に渡ります。
機能開発で完結することもあれば、顧客のニーズを叶えられるように現場のオペレーションを考えるのも、オープンロジのサービスです。

プロダクトだけがソリューションではない中で、成果とプロダクト成長をどう紐付け、どう計測していくのか?
今後オープンロジがギアチェンジできる大きな分岐点になると考え、代表の伊藤やメンバーと一緒に日々頭を捻り続けています。


質問コーナー

イベント内で頂いた質問とその回答を記載していきます。

Q. AIの活用について、考えていることはありますか?

物流において、私たちの頭を悩ませるのは「需給予測」ですが、その点においてAIソリューションは物流ととてもシナジーがあると思っています。

AIは100%の正確性を持っているわけではないので、予測することが主力になります。
物流における予測とは、例えば荷主様には余剰在庫を持たないために適度な在庫量のみ倉庫内に用意したい、というニーズがあります。そこで販売量の予測が失敗すると、在庫の用意が少なすぎて在庫切れを起こし、販売機会の損失となってしまいます。
倉庫側は、どれだけ荷物を受け入れられるのか?という自社のキャパシティの観点だけでなく、荷主から実際どれだけの荷物が、いつ倉庫に届くのか?ということを把握する必要があります。倉庫作業には人間が行う部分が必ずありますので、急に大量の荷物を扱わなければならない事態が発生すると、人手が足りなるためです。
このように、荷主・倉庫双方が需給予測に合わせて体制構築をしなければなりませんので、その点でAIを大きく活用できるはずです。

ただ、需給予測するにしてもまずはデータを集めないと予測できませんし、物流にはシステムを経由しない作業も多く存在します。
荷主が何を依頼し、倉庫がどの程度の品質で提供できて、作業時間はどの程度かかるのか?など、業務をDX化しながら、様々なデータをプロダクトで収集すると同時に、AIモデルの設計・開発、PoCをしているのが現在のフェーズです。


Q. ステークホルダーが多い中、それぞれの解像度を高めるのは難しいと思いますが、プロダクトマネージャーや開発メンバーはどう解像度を上げていますか?

オープンロジは倉庫様がパートナーとして一緒に事業を担ってくれていますので、倉庫の解像度は上げやすいです。入社時に研修として倉庫に赴き、実際に作業をやってみるといった機会もありますし、その後も新しい開発のために倉庫に赴いて、一緒に作業を行ったりすることもあります。

反対に、荷主様の解像度を高めるのは難しいですね。基本的にはインタビューを行い解像度を上げていきますが、私の場合は荷主様の執務室にお邪魔させて頂き、オープンロジのシステムを触ったタイミングで業務についてヒアリングを行ったりしました。

ただ、この取り組みはあくまでも「”運用担当者”の解像度を上げること」につながります。
もっと高いところにある要望、例えばコストパフォーマンスとの天秤など、荷主様の経営レベルがどう考えているのかも想定しなければなりません。そういう時は、荷主様の経営陣にお時間を頂いたり、倉庫様にお連れして現場を見て頂いたり、オープンロジの経営陣も含めて、荷主様の解像度を高めています。


おわりに

私なりにオープンロジのプロダクト開発の難しさとアプローチを書いてみましたが、何かしら皆さまのプロダクト開発のヒントになれば幸いです。今後もオープンロジならではのプロダクトアプローチについて、機会があればお話ししていきたいと思います。


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オープンロジは一緒に「物流の未来を、動かす」というビジョンを実現するメンバーを募集しています!

オープンロジのプロダクトマネージャーは、成長指標の策定など、事業戦略からプロダクト戦略にアプローチすることができます。もっと詳しく仕事内容やプロダクトの難しさについて知りたい方は、是非こちらの記事もご覧ください。

現在エンジニアやデザイナーとして働いている方が、オープンロジに入社後オペレーション・プロダクト設計スキルを高め、プロダクトマネージャーとして成長していくことも可能です。
もしこの記事を読んでオープンロジに興味を持って下さった方は是非、カジュアルに話してみませんか?


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